兄と弟
正月、実家に行ったときに
棚に入っている一つのカセットテープを見つけた。
見ると、
①洋平3歳 健司1歳3ヶ月
②〃 3歳4ヶ月 〃1歳7ヶ月
と書いてあった。
洋平とは、ぼくの兄の名前。
小さい頃、なぜか分からないけれど録音していたらしい。
持ち帰っても、カセットデッキがないので
しばらくそのままになっていたけれど、
先日、知り合いのデッキを借りて聞いてみた。
テープを回す。
若い男性の声がする。
たぶん、今のぼくと同い年くらいの父の声。
「たくさんあるんだから
けんちゃんに一つあげればいいの!」
まだ3歳の兄に、父がちょっと怒りながら叱っていた。
ぼくが聞いたこともない幼い兄の声が続く。
「はい。あげた。2つになっちゃったー。」
妙にききわけが良い兄の声。
それを聞いて父の機嫌がもどる。
あげたくないおもちゃ。
父や母からの視線、弟のことも好きだ。
まだ3歳の兄の中で、
そんな複雑な想いが巡っているんだろうか、
なんてことを想像する。
しばらく経って、
「おにいちゃんって言ってごらん」
「けんちゃん、おにいちゃんって言うの
わすれちゃったのー?」
「ねぇ、けんちゃん。おにいちゃんって言ってごらん」
兄がぼくに話しかける。
なんどもなんども、「おにいちゃん」と
呼ばせようと声をかけている。
たぶん、一歳のぼくには発音が難しくて、
ようやく「ぉにたゃん」 くらいの言葉を口にする。
母が「あ、言った言った」と言う。
兄は聞き取れなかったらしく、
ぜんぜん違うことを話し始める。
小さな二人がすれ違ってしまう様子がなんだか切ない。
しばらくして、
「ねぇ、お母さん。***して〜」(途中聞き取れなかった)
と兄が言う。
母は「今はできないよ。けんちゃんが壊しちゃうでしょ?」
と答える。
それでも兄は「いいの、上に置いておけばいいから」
と、言って母に甘える。
1歳のぼくが「うえ?うえ?」と興味を持つ。
ここからは音声だけだから想像だけど、
きっと、ぼくが上に置いてある何かを
とろうとしたのだろう。
必死に兄が「だめー」という声が聞こえる。
そして、「イカーン!」という兄の大声と一緒に、
何かが崩れる音、そして泣き声。
ぼくが兄に突き飛ばされたらしい。
母が気づいて「あ、コラ!」と言う。
兄は「やめてー」と言いながら泣く。
「どうしてそんなことするの?
押したらでめでしょう?倒れちゃうんだから。」
たぶん、今のぼくより年下の母が言う。
そこでテープはおしまい。
倒れてわんわん泣いている僕と、弟を泣かせて、自分も泣いている兄。
二人をみながら、
その日、そのときの母は何を思っていたんだろう。
1歳と3歳の兄弟のいる家庭では、
きっとこんな光景は日常茶飯事だろうけど、
ぼくの家族は、最後に生まれたぼくが一員に加わって、
こんな日常を繰り返しながら今の家族になったのだな、
と思うと不思議な気持ちになる。
そういえば、ぼくが遊びでも仕事でも、
後から入って自分を表現するのに気を使うのは、
こんな風景ともつながってたりして、
と思うと面白い。
「お兄ちゃん、後から生まれてきて
好きか勝手してすんませんね。」
なんて、あの頃の自分が言えたら良かったのに、
なんてことを想像して、笑ってしまった。
0 件のコメント :
コメントを投稿