雨の中の一年

公開日: 2015-10-28 詩(うた) 日記



昨日は中之島のおしゃれな建物に舞台を見に行った。
パートナーのなっちゃんと二人で。
橋本久仁彦さんが座長をしている縁坐舞台の公演だった。

縁坐舞台は、一般的な「舞台」というイメージからはほど遠い。
脚本も、照明などの舞台装置も、観客席と舞台の高低差もなく、
集まった人が語ったことを即興的に、舞台に映していく。



知らない人がその場に近いイメージを結ぶとすれば、
即興で行われる能舞台というと幾分かは近づくかもしれない。

しかし、橋本さんが口火を切って生まれる場の重力や、
コンクリートのうちっぱなしの床にろうそくの炎がゆれて動く光と影、
後ろに移るビルやマンションの明かり、かすかに見える川面、
そういったものを、そのまま伝えることはできそうにもなく、
また、その質感を言葉で言い表すことに意味はない。


昨日は会場に向かう途中で雨が降った。
ぼくらは傘をさしながら、ビルの合間を自転車で進んだ。
「こんなに大都会の中を自転車で進んでるね」
冗談まじりにぼくはなっちゃんに言った。

去年の同じくらいの時期に、中之島の縁坐舞台を二人で
見に行ったことを思いだしていた。
「去年も雨が降ってたよね。あんときはすごい雨だった」
そう口にしながら、顔も上げることができないような、
「バケツをひっくり返したような雨」とはこれか、というような、
そんな雨の中を、去年はズブ濡れになって二人で歩いていた。

今日は、雨はパラパラと降っているけれど、
遠くのビルまでよく見えて、日中晴れていたからか、
夜になっても温かかった。

まったく話すつもりはなかったけれど、
舞台を囲んで話す時間に、なぜか口をついて
それらの風景が飛び出していた。

「舞台は観ている人の現実をありありと映す」と、
橋本さんは言っていたけれど、
そこには過去も現在も混ざった自分の姿があって、
一夜明けた今も、不思議とその姿は側にいる。

帰り道「去年は、あんだけ雨降ってたけど、
おれら足は止めなかったもんね。よくやったよね。」
となっちゃんに話しかける。

笑いながら「そうだね。よくやったね。」と
言葉が返ってくる。

雨の中に、一年が詰まっている。

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