意味を切り取って「きく」ときに、世界の断絶がはじまる

公開日: 2015-02-18 きく



ぼくが学校や職場で習った「聞く」は、
話している人の言葉の意味を受けとり、
じぶんなりの解釈をつけて理解することだった。


その価値観を根底からくつがえされたのは
橋本久仁彦さんの開いている、
ミニカウンセリングトレーニングクラス」でのこと。

そこでは、参加者が二人一組になって、
お互いの話を15分聞きあったケースを事前に用意する。

当日は、録音された音声と文字お越しした逐語録をつかい、
語られていることを微細なレベルでみていく。
 そして、例えばこんな風に視界が深まっていく。

(開始直後)
「なんか、なにも話すことがなくて困りますね。。
うーん。そうだな・・・・
そういえば、この間、階段をのぼっていたら
急に前を歩いている人が”落ちてきて”ビックリしました。」

この段階では、語り手は時間を少しだけさかのぼって、
たんにじぶんが見た風景のことを説明している。
ここで、
「どんな人だったんですか?」とか、
「怪我はなかったんですか?」とか、
聞き手が邪魔をせず、相手の言葉に耳を澄ましていると
語り手はじぶんの言葉を辿って、次の景色を語りだす。

(5分後)
「 ・・・・そうですね。。。。。
3年前から今の会社にいるんですけど、
仲のよかった先輩が最近”落ち込んでいて”、
食事に誘ったらちょっと元気になってほっとしました。」

ここでは、時間を3年前まで広げ、
さらに「落ちる」という言葉を繰り返して、
今度はじぶんの身近にいる人のことを語っていく。
ここでも邪魔をしなければ、
語り手はじぶんの内面に向かって、
さらに歩みを進めることが可能になる。

(10分後)
「でも、職場にはあまり好きじゃない人もいて、
その人たちは人の悪口ばかりいっているんですよ。
仕事も全然できないのに周りに迷惑かけて、
人間あそこまで”落ちたくないな”って思います。」

語り手は、3度目の「落ちる」を
じぶんの心境を表すために語りだす。

(終了直前)
「昔からずっと、そういう人が嫌いなんですけど、
今年で32だし、会社のこともじぶんのことも
将来のことを考えると、このままじゃいけないと思うし、
清水の舞台から飛び降りるつもりで、
がんばってみようかなって思います。」

ここまで来て、語り手は「昔からずっと」という
じぶんの過去の全てを視野に入れた時間軸と、
「32」という今を含んだ全人生の入った時間軸を持ち出す。

そして、じぶんの意思で「落ちる」行為を指す
「飛び降りる」という表現をつかって、
将来のことを語りだすことになる。


意味だけを聞けば、ただの世間話であり、
どこにでもある会話。そう見ることもできる。

けれど、語り手は何の意識もせずに同じ言葉を繰り返し、
表面的な内容から、内面世界を正確に描写するようになる。
しかもこれは、今までのところ全てのケースで
確認できる現象でもある。

仮にこれが単なる偶然ではなく、
ぼくたちが言葉を使うときに必ず起きる現象だとすれば、
たった15分でも、人が人の話を「聞く」空間を作れば、
相手の人生全てを「きく」ことが可能になる、ということ。



もしそうだとすれば、
言葉を意味や効率で切り取るという行為が残すのは、
語り手の世界の分断であり、断絶となる。

世の中を見渡して、いたるところで起こっている
すれ違いや、個別化、孤立化は、
「きく」ときにすでに始まっているのかもしれない。

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