ぼくの東京物語 その10 メキシコ料理店

公開日: 2015-06-12 ぼくの東京物語

東京福島にいったときのことを小説風に綴っています。

前回までの記事
その1 深夜バス
その2 聡志とじゅんちゃん
その3 東京
その4 わーさんとかよちゃん
その5 テレビを「持たない」人のダイアログサークル
その6 夜の帰り道
その7 聡志とじゅんちゃんの家の朝
その8 夫婦サミット
その9 影舞

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終わりがけ、参加してくれた一人が「みんなでご飯に行きませんか」と誘ってくれる。

普段からそんなことを言うようには見えないし、ノリや勢いだけで提案しているように見えなくてなんだかうれしくなる。駅まで行く途中、聡志とじゅんちゃんがよく行っているというメキシコ料理屋さんへ行く。話は全く尽きなくて、こうしているとここが東京なのか大阪に皆が来ているのか分からなくなる。

会計のとき、トイレに置かれていたビールの割引券をダメもとで出してみると、40年ここで店をやっているという店主がイラだった口調で「これトイレからとってきたでしょ。分かりますよ。普通使えないの分かりませんか?」と返される。

苛立っているのが分かるくらいビリッとした空気で応答されたことにビックリして、ぼくはなんと言えばいいのか困っていた。その様子を見て「傷つけちゃってすいません。でも、こっちも商売なんで。」と店主が付け足す。ぼくは苦笑いをしながら一気にモヤモヤした気持ちで一杯になっていた。

帰り道を歩き始めてもモヤモヤはまだ残っていて、「大阪だったら『お客さーん。これ流石に当日は使えないんですよ。また来てください。』とか『ごめんなさいねー。もう一枚渡しとくから、またぜったい来てね。』って返すよね。」となっちゃんと話して吐き出してみる。

大阪と東京の違いと言える程のことではないかもしれないけれど、軽い気持ちで出した割引券に予想もしていない強さで反応された痛みが残っていたから、大袈裟にでも言いはなってモヤモヤを吹き飛ばしたくなっていた。

帰り道、昨日と同じように敷地の中にきっちりとモノが収まっている街の景色が境界線のゆるい大阪との違いを際立たせて、ここが東京なんだということを実感する。この中に一件だけ外に鉢植えや自転車を出している家があったら、そりゃ常識はずれだと言われるんだろうなとメキシコ料理のお店で起こったこととと街並が重なる。

そんなことを話しながら、ぼくたちは暗いなか静かにたたずむ草木を横目に、今日も道一杯に広がって歩いて聡志とじゅんちゃんの家へ帰った。

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