川崎正明 著 「かかわらなければ路傍の人―塔和子の詩の世界 」
公開日: 2017-01-17 本
以前、知り合いというか人生の大先輩からいただいた本。
もらってから読もうとしたものの、
なんとなく、ハンセン病というものが自分からは遠くて、
置きっぱなしにしているのが気になっていたら
映画「あん」を見て急に読みたくなった。
この映画の良さはこちらに書いたのでよろしければ。
改めて読むと、この本も映画と同じような、
いやそれ以上にハンセン病とか、それを取り巻く社会と
真摯に向き合って生きた人のなにかが託されている作品だとわかった。
患者や病気の悲惨さを直接訴えるのではなく、
この世に生を受けた人が「ただ生きた」という印を刻んだ詩を、
その当時の状況などと一緒に説明してくれて、
映画の余白に自分なりに近づいていくような感覚になる。
書きながら思ったのは、
「ハンセン病について書かれた本」をなかなか読めなかったのは、
ある悲惨さや辛さを訴えかけられたとき、
遠くにあるものを無理やり近くのものとして感じさせられたり、
感じなければならないような気分にさせられる経験があって、
そういうものが嫌だったからだと思う。
いや、その経験が、というより、
一旦近づいてもやっぱり遠かったり近かったりするような、
距離があるから過ぎてしまえばまた遠くなる
虚しさが嫌だったのかもしれない。
「夜の星を見て、あの星の一つにぼくが住んでいて、
そこで笑っている、ときみは考えるだろう。
だからぜんぶの星が笑っているように思える。
きみにとっては星は笑うものだ!」
そう言って彼はまた笑った。
(サンテグジュペリ「星の王子さま」池澤夏樹訳/より)
映画「あん」やこの本で起こるのは、
哀れんだり助けたり救ったりするような対象としてじゃなく、
その人の存在が、その人の生きる世界が、
気づけばフッと自分の世界の中に発生してしまうような経験で、
ほんとうの意味で当事者になるというのは、
そういう波のおだやかな湖面のような静かで確かな変化だと思う。
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