遠慮してたら死ぬよ
公開日: 2017-05-26 日記
5月の夜のさわやかな風が吹いていた。
道路工事の赤いランプが迫っていた。
なんでそんなに、なんのくったくもなく、
まるでその日の風みたいに、
「今日はいい天気だね」とでも言うように、
そんな一言を放てるのか
ぼくにとって世界に一つしか無いような言葉を
そこら中に転がっている石ころでも拾いあげてよこすように
笑いながら、何の慎重さもなく、無造作に
それは、ぼくに対する忠告なんかではもちろんなくて、
注意やアドバイスですらなかった
教えようとか変えようとか
そういうぼくに対する働きかけなんて一切なく、
でもまぎれもなくぼくに向かって差し出された言葉。
「そこを曲がったら駅が見えるよ」
とでも言うように。
けれど、彼にとってもぼくにとっても
文字通り生きるか死ぬかに関わる事実を
いったいどうしたら
そんな風に人に向かって重さも匂いもひっかかりもない
風みたいな言葉をかけられるのか
何が起こったのか
その言葉が指し示すものと
伝わってくる響きと目に映る光景が
ただの一点も重ならなくて
しばらく何を言うこともできなかった
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